朝日新聞朝刊「経済気象台」

「女性活躍」は成功するか

 「ごめんね、遅くなって」と妻。少々散らかった部屋には目をつむろうと、バタバタと夕飯の支度をする。先に帰った夫は、ソファでテレビを見ている。

 家事も育児も「当たり前に」担う働く女性には、珍しい光景ではないだろう。その果てに、いまの日本がある。民間企業の女性の管理職比率は8%程度と、先進国とは思えない数字だし、賃金総額も男性の約4割とされ、悲惨な水準だ。

 ついに潮目は変わるのか。女性が活躍することで日本の経済成長を引き上げようと、安倍政権は「女性活躍」を成長戦略の重要課題に位置づけた。「2020年までに、指導的地位に女性が占める割合を30%にする」という。

 危惧することが一つある。冒頭のような日本の価値観や慣習を転換せずに、女性活躍は成功するのだろうか。

 男性の3倍くらいは仕事をして、家事もきちんとこなす。こんな女性が一人前とみなされてきた。いま、数少ない女性管理職の多くは独身か子どもがいない既婚で、子どもを育てる人は「スーパーキャリアウーマン」だ。

 「家事や子育ては女の仕事」という慣習が抜け切れない日本では、共働きで妻がフルタイムでもパートでも、あるいは専業主婦でも、夫の平日の家事時間はほとんど変わらない。これで女性に「活躍しろ」とは無理な話だ。

 最大の処方箋(せん)は、男性が家事と育児に参画することだ。男性が家事と育児を「当たり前」にする社会にならなければ、女性活躍の大号令は絵に描いた餅に終わる。価値観を変えるのは、一筋縄ではいかない。父親専用の育休や、育休取得率の公表義務づけなど、法律や制度で縛るという荒療治をするしかないのではないか。(福姫)

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