朝日新聞朝刊「経済気象台」

SNSがもたらす地殻変動

 全国でフリーペーパーやフリーマガジンを目にするようになったのは2000年ごろだろうか。

 福岡都市圏では、グルメやエステなどの記事広告を集めたフリーマガジンが早くから浸透し、女性たちの行動を左右してきた。開業とともに軌道に乗せることができた若い女性向けの店も少なくなかった。毎月のメニューを写真とともに載せれば、大きな集客につながっていた。

 インターネットが世の中に広がり始めて20年ほどたつが、初期のインターネットは「情報は無料」というしくみを消費者に一般化させ、無料の情報誌には追い風だった。デジタル化でプロとアマチュアの境目がなくなり、無料誌の創刊ラッシュが続いた。

 ところが、ツイッターやフェイスブックのようなSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の出現は、地盤を揺るがすような打撃をもたらしている。昨年、福岡では25年以上も続いた女性向けのフリーマガジンが、相次いで廃刊した。倒産に追い込まれたところもある。

 フリーペーパーやフリーマガジンの広告主の多くは、新聞やテレビなどの広告予算が出せない地域の店だ。パンフレットやホームページも、見る人がいなければ集客にはつながらないが、SNSは、こうした個々の店が自ら情報発信のメディアを持ったと言える。

 SNSで情報を発信し、双方向でやりとりして、拡散できる。個人が好きなことだけを言うネット空間ではなく、いままで思ってもいない新しい商品やサービスが生まれている。ネット上を飛び交う情報は、無料誌のビジネスモデルを揺るがしただけでなく、広く社会のしくみを変えるほどの地殻変動も起こしている。

 (福姫)

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