朝日新聞朝刊「経済気象台」

1億総メディアの時代に

 ネットにブログを書き、SNSで今の気持ちを発信する。食事や風景やペットなど、身のまわりの出来事を写真でアップする。いまや「1億総メディア」ともいえる時代だ。ライターもカメラマンもプロとアマの垣根が低くなってきた。

 ブログやSNSは個人が発信するだけではない。ある調査では企業の7割がフェイスブックを使っていた。中小企業は社長自身が利用し、ブランディングに力を入れている。

 ある貸しビル業の後継者は、人口減少で空き店舗が埋まらず途方にくれていた。リノベーション(建物の改修や機能向上)の考え方を学び、友人や知人と一緒に建物を自ら改修する様子をフェイスブックで発信し始めたところ、続々と「いいね!」が集まり、事業も軌道に乗り始めた。町の再生を理念とする新会社設立から3年目の今年、部屋の情報をアップして14分で借り手が決まるという記録も出した。

 こうした例は、決して例外ではない。小さな農場が毎日とれたての野菜の写真をフェイスブックでアップしていると大手企業から連絡があり取引が始まった、個人のブログを見てマスコミから取材がきたなど、枚挙にいとまがない。

 カギとなるのは、共感と写真の力。個人の思いや物語にこそ人は共感するし、写真の力は絶大だ。その奥にはアイデアを具体化する作業と編集力がある。だからといって特別な素養や技能、訓練が必要なわけではない。短歌や俳句を詠んできた日本人ならではの感性が、そこに生きるのではないか。個人でも小さな企業でも、やり方次第では地域で輝き、世界に発信できる可能性が広がっているところが現代のおもしろいところだ。(福姫)

※この記事は朝日新聞朝刊「経済気象台」に掲載された記事を朝日新聞社の承諾のもと再掲したものです(承諾番号:20-2620)。この記事について、朝日新聞社に無断で転載することを禁じます。