朝日新聞朝刊「経済気象台」

蔵開きから考える観光立国

 佐賀県鹿島市で3月にあった日本酒の酒蔵開きには、市の人口のおよそ2・4倍にあたる約7万5千人が、足を運んだという。

 江戸時代の宿場町として栄え、当時の町並みが残るまち。公式ガイドブックやちらしを片手に、シャトルバスで6軒ある酒蔵をめぐることができる。

 蔵人と触れ合い、何種類もの地酒と地元の食を味わえる。古い蔵でのライブもあり、目の前にいる若い陶芸家の杯でお酒を酌み交わすこともできる。

 観光庁が推進する「酒蔵ツーリズム」は、お酒と地域の文化や歴史を合わせて、国内外へと情報発信する取り組みを指す。成長戦略の一つとして、海外からの客も呼び込む観光の目玉になってきた。実は、「酒蔵ツーリズム」という名前は鹿島市の登録商標だ。「鍋島」で知られる富久千代酒造をはじめ、市内の六つの酒蔵を中心に2012年から始めたその取り組みは、いまや全国に広がりつつある。

 立役者は、酒蔵だけではない。日本酒ブームを支える若い女性たちの活躍も見逃せない。福岡、佐賀、長崎の各県では、地元の蔵元が講師となる女性向けの日本酒講座に十数年前から人気が集まり、地元の日本酒を愛する女性客を醸成してきた。卒業生たちは、日々地元の飲食店で地元のお酒を飲み語り、酒蔵開きの季節には若い女性の姿で景色を変えてきた。

 政府は20年の訪日客の目標を引き上げ、4千万人にしたという。日本酒ファンの女性たちのように、自分たちの関心から動く人たちのパワーを生かしながら、地域に埋もれがちな「成長の芽」を育てたい。これこそ、真の「観光立国」に近づく一歩ではないだろうか。

 (福姫)

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