朝日新聞朝刊「経済気象台」

子連れ出勤、いま昔

 保育園に預けた子どもを会社に連れて戻って残業したり、子どもをおぶって会議に出席したり。20年ほど前、外資系企業に勤める友人のエピソードを聞いて、「日本企業ではありえない」と思ったものだ。

 子連れでテレビ局の仕事にきたアグネス・チャンさんが批判され、一大論争を巻き起こした「アグネス論争」もあった。「プロとして甘えている」という批判は、当時の仕事観、いや、日本の男社会の仕事観では当然の感覚だった。

 2014年3月現在で、企業内の保育所や託児所は、全国で約4500カ所に増えた。だが、いまの「子連れ出勤」は、こうした施設を持つ企業ばかりではない。

 授乳服製造のモーハウス(茨城県つくば市)は、母親が赤ちゃんと一緒に出勤し、預けるのではなくそのまま一緒に仕事をする就業スタイルを確立した。母親の机の近くにマットを敷き、子どもがすやすやと眠る姿は珍しくない。13年には経済産業省の「ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれた。女性が主力の会社では最近増えてきており、注目されて表彰対象にもなる。これが近年の傾向だろう。

 なんらかの事情で子どもを預けられないとき、「会社を休む」という選択肢はもう古い。男性の子連れ出勤も当たり前になっていい。「会社に子どもを連れてきてもいい」とトップが決め、社内のコンセンサスをとるだけで、社員は仕事をしやすくなる。頻繁に仕事に支障をきたすようでは困るが、社内に子どもがいる風景はいいものだ。

 これからますますワークスタイルは変化する。子育てによるキャリアダウンを会社がいかにやわらげられるか、企業経営に問われている。(福姫)

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