朝日新聞朝刊「経済気象台」

企業のための働き方改革

 私の住む地方都市で9月、働き方改革のシンポジウムがあった。経営者や人事担当者、労働組合、女性ら600人近くが集まった。

 働き方改革は企業にとってこそ死活問題だと実感した。成功すれば、企業のイメージを大きく変える「ブランディング」になる。

 登壇したT社。建設機器のリース会社だ。30年ほど前、初の新卒採用の合同会社説明会に参加した。ブースにひとりも学生がこないことに衝撃を受けた。

 「日本一の中小企業になる」と社長は有給休暇完全消化、残業ゼロに取り組む。「就業時間以後の仕事は受けなくていい」「無理を言う客には見積もりを高く出せ」と徹底した。顧客満足より社員満足を重視する社長の姿勢に社員は驚いた。無理を言いがちなお得意さんのシェアは落ちたが、広く薄く顧客を持つことで利益につながる循環ができた。今では3人の採用に400人近い学生が押し寄せることもある。

 企業内保育園を展開するO社も、人が次々にやめた時期があった。「同一労働同一賃金」に取り組み、パートの時給を18%アップ。誰が休んでも仕事が回るように日替わりリーダー制度をつくった。パートもリーダーを務めることにしたのだ。

 一方で、管理部門の社員は自宅勤務にしてオフィス賃料を減らす工夫も。メディアに取り上げられる機会や、社長の講演が増えるにつれ、働きたい、という人も増えた。

 これらの企業に共通するのは危機に直面した経験だ。ピンチをチャンスにできる企業と、採用難のまましぼんでいく企業との違いが顕在化していくのだろう。本気で改革できるかどうか、企業の真価が問われている。(福姫)

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